令和7年1月24日 身体障害者相談員研修会       「ハラスメントについて」                多久島岩ア法律事務所                弁護士 岩 ア 雄 大 〜はじめに〜  1 さまざまなハラスメント   ・セクシュアルハラスメント・パワーハラスメント(職場)   ・アカデミックハラスメント(教育機関)   ・モラルハラスメント(家庭)   ・カスタマーハラスメント(店)     2 主な要因 @ 価値基準・社会通念の変化 →「虐待」「いじめ」「差別」 A 権利意識の向上  3 最近の風潮 @ 言葉として普及したことにより、言いやすくなった A 形式的にあてはめることも容易になった   → 線引きが難しい、職場環境の悪化・萎縮にもなり得る B コンプライアンスとしての事後対応の重要性   → 社会的評価の低下(企業、自治体トップ) 4 ハラスメントの構造    いつ、だれが、だれに、どのようなことを、どのような状況で   どのようにしたのか、言ったのか      +    証拠上 認定できる事実が「ハラスメント」と評価できるか 第1 セクシュアルハラスメント   1 セクシュアルハラスメントとは 相手の意に反する性的な言動 (男女雇用機会均等法) @「意に反する」 以下の弁明(言い訳)は通らない ・相手に嫌だと言われなかった(嫌な顔をしていなかった) ・セクハラになるとは思っていなかった    A「性的な言動」 ・必要なく身体へ接触する ・性的な事実関係を尋ねる ・性的な冗談、からかい、食事、デートへの執拗な誘い ・わいせつなものを配布・掲載   2 最近 特に注意が必要な言動 @ 妊娠、出産、育児、介護等に関するもの A 性別による役割分担意識に基づくもの B 容姿への言及、性的指向・性自認に関するもの   3 問題になりやすいケース(プライベートとの境界線) @ 休日に職場以外の場所で行われる懇親会 A オンライン会議 B LineなどのSNS   4 行為者の重い責任     裁判でも 重い懲戒処分が無効にならない ・平成27年2月26日最高裁判決(海遊館) ・平成30年11月6日最高裁判決(加古川市) 第2 パワーハラスメント  1 パワーハラスメントとは?  (1)改正労働施策総合推進法30条の2第1項(R2.6施行) @ 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって A 業務上必要かつ相当の範囲を超えたものにより B その雇用する労働者の就業環境が害されること (2)パワハラの類型 @ 身体的な攻撃(暴行・傷害) A 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言) B 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視) C 過大な要求(不必要・不可能なことの要求等) D 過小な要求(能力や経験をかけ離れた仕事を命じること等) E 個への過剰な侵害(部下の私生活に対する不当な介入) ※ 分類であって要件ではない! 形式的に上記類型にあてはめるような主張の増加 (3)「業務上必要かつ相当の範囲を超えたもの」(前記1(1)Aの要件)     「業務上の必要性」を欠く場合とは? → 業務とは無関係な動機・目的に基づく場合   例) 私怨・内部通報を行ったこと等を理由とするもの    「業務上の相当性」を欠く場合とは? → 業務上の指導・注意・教育・叱責等を目的とする場合でも、 その態様・方法が相当性を欠く場合 例)「叱咤激励」を趣旨とする部下へのメール ・本人だけでなく同僚にも送信 ・退職勧告とも受け取れる内容 ・人の気持ちを逆撫でする侮辱的言辞 (東京高等裁判所 平成17年4月20日判決) <注意点> 業務上の注意や指導を目的とするものであっても(悪意はなかった としても)、態様・方法が相当性を欠けばパワハラになる。 ・相手の業務量、業務の進捗状況 ・相手の健康状態 ・指導のタイミング・指導の場所・指導の方法 ・事後のフォロー  ※ 典型例 そんな言い方しなくてもいいのに・・・  ※ いわゆる「悪気のない加害者」のケース    2 主観面の位置づけ   (1)指導等をする側の主観面   ・注意や指導が目的だったとしても、それだけでパワハラが否定      されるわけではない   (2)指導等を受ける側の主観面   ・注意等を受けた側が不満・不快に思ったとしても、それだけで    パワハラが成立するわけではない   「一般に医療事故は単純ミスがその原因の大きな部分を占める   ことは顕著な事実であり、そのため、Aが、原告を責任ある   常勤スタッフとして育てるため、単純ミスを繰り返す原告に   対して、時には厳しい指摘・指導や物言いをしたことが窺われる   が、それは生命・健康を預かる職場の管理職が医療現場に   おいて当然になすべき業務上の指示の範囲内にとどまるもの   であり、到底違法ということはできない」   (平成21年10月15日東京地方裁判所判決)   ・注意等を受けた側がパワハラではないと思ったとしても、客観的に    相当性を欠いていれば、その言動を見聞きした他の職員との関係で    パワハラが成立し得る   (平成29年10月18日東京高等裁判所判決) 第3 カスタマーハラスメントと「合理的配慮」 1 東京都カスタマー・ハラスメント防止条例   ・令和6年10月4日成立   ・令和7年4月1日施行        カスタマーハラスメントの定義 「顧客等から就業者に対する、「著しい迷惑行為」であり、就業環境を害するもの 」(2条5号)     「著しい迷惑行為」とは?     暴行、脅迫その他の「違法な行為」又は正当な理由がない     過度な要求、暴言その他の「不当な行為」(2条4号)    以下、「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイド ライン)」(R6・12)より 「違法な行為」 暴行、傷害、脅迫、強要、名誉毀損、侮辱、威力 業務妨害、不退去等の刑法や特別刑法に規定する 行為    「不当な行為」 @ 顧客等の要求内容が妥当性を欠く ・就業者が提供する商品・サービスに瑕疵・過失  が認められない場合 ・要求内容が、就業者の提供する商品・サービ  スの内容とは関係がない場合 A 要求内容の妥当性にかかわらず、要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当である ・身体的な攻撃 ・精神的な攻撃 ・威圧的な言動 ・土下座の要求 ・執拗(継続的)な言動 ・拘束する行動 ・差別的な言動 ・性的な言動 ・就業者個人への攻撃や嫌がらせ B 要求内容の妥当性に照らして、要求を実現する   ための手段・態様が社会通念上不相当である ・過度な商品交換の要求 ・過度な金銭補償の要求 ・過度な謝罪の要求 ・その他不可能な行為や抽象的な行為の要求 2 合理的配慮との関係   <条例のポイント> @ カスタマーハラスメントの禁止 「何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを 行ってはならない」(4条) ※ 条例自体に罰則はなし   ※ 行為によっては刑法等により処罰される可能性がある A 顧客等への配慮 「この条例の適用に当たっては、顧客等の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない」(5条) 資料 ガイドライン(抜粋)    <気になる最近の動き・・・> ・氏名を公表する制裁措置を盛り込んだ条例を検討(三重県桑名市) ・カスタマーハラスメントの「防止対策」として、庁舎内での撮影 や録音を禁止する自治体が増えているとの報道あり 〜終わりに〜  @ ハラスメントは「評価」の問題 A 評価の物差しは社会通念や世間相場によって変わってくる B 物差しが変われば結論も変わる 未然に防止するためには、今の物差しと「自分の物差し」との間に ズレがないか、定期的に意識することが大切! ご静聴いただき有難うございました。                            以 上